あなたがいれば


埴輪子(はにわ子)はいつだって待っている。
土佐犬の綱を手にした王子様を。

今日のお昼も、一人で公園のベンチでお弁当を食べながら無意識に土佐犬を探してしまう。
こんなオフィス街の公園に土佐犬なんて、いるはずないのに。
でも、職場の女の子たちの退屈な恋バナを聞くより、土佐犬を探しながらの一人ランチの方がどんなに有意義か。

高二の夏、長年入院していた母が死んだ。
母はいつだって、土佐犬の強さを語っていた。
土佐犬は日本一……いや、世界一強い犬よ。
レトリバーがなによ、ハスキー犬がなによ

土佐犬に比べたら、足元にも及ばない。
いいこと、埴輪子。あなたも…私に似て体があまり丈夫ではないわ。
だから、土佐犬を手なづけられるような、たくましい人を見つけなさい。
土佐犬を手なづけられる人なら、埴輪子がどんな状況でも、助けてくれる。
埴輪子には、そんな人に寄り添って、幸せになって欲しいの。」

その話を聞いてから、当時付き合っていた彼とは別れることにした。
彼が飼っている犬は、ポメラニアンだったから。

そんな事を思い出していると、埴輪子はお弁当のミートボールを落としてしまった。
ミートボールは、噴水近くまで転がっていった。
「ガルルルル〜〜!!」
ふと見ると、ミートボールは牙に覆われていた。
あっという間にミートボールは牙の中に消えていった。
その牙の持ち主は、土佐犬だった。
土佐犬は綱に繋がれていた。

「アントニオ!ばっちぃ〜よ!!」
その声の主の、土佐犬の綱を持つ腕は……。

−つづく−


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編集長デス。
瀬戸内寂聴ケータイ小説を始めたそうなので、アタシも負けじと始めました。
ガッキー主演で映画化が密かな夢です。