あなたがいれば〜第二話〜

綱を持つ腕は意外に細く、白かった。
「アントニオ!落ちたもん食べちゃダメって、僕いつも言ってるよね?メッ!!」
アントニオ、というのはおそらくこの土佐犬の名だろう。
アントニオをしきりに怒っているのは、ひょろっとした青年だった。
ARMYと胸に大きく書かれた長袖のTシャツを着ている。
土佐犬を繋いだその細い白い腕は、見た目によらずたくましいのかもしれない。

ミートボールを食べ終えたアントニオは、青年の足元に頭突きしてじゃれている。
青年はアントニオの頭を撫でて、自分の額をアントニオの顔にこすりつけた。
「アントニオ…アントニオ…!キャハハ…!」
「ワンワン!」

しばらくすると、青年とアントニオは地面に転がりじゃれあい始めた。
二人とも顔をこすりつけ、抱擁し、ささやき合っている。

突然目の前で行われた光景を、埴輪子は呆然と見つめ続けた。
母の言葉が頭をよぎる。
土佐犬を、手なづける男……。
だが、目の前の男は手なづけると言うより、愛撫、かもしれない。
土佐犬と愛撫し合う男……。
母だったら、何と言うだろうか。

「ア…アントニオ。人が見てるよ…!」
青年は私の視線に気づき我に帰ったようで、アントニオの体を押しのけた。

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地下鉄車内で、隣に座っている若いカップルがケンカを始めました。
隣の女はこんなバカ小説を打っています。
どっちもどっちです。